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2015年12月27日 (日)

よかった時代は、無理をしていた時代

※この話は事実に基づいた、完全なフィクションです。

前回からのつづき

前回はこちら
http://maruko-psw.cocolog-nifty.com/blog/2015/12/post-eb37.html


○月×日


その後、定期的に訪問することができ、少しずつ一緒に片づけを行った。


ここまでの状況に来てしまうと、一人では手が付けられなくなってしまうが、誰かと一緒であれば、その一歩が踏み出せる場合が多い。



こちらへの警戒心や不安は完全に解けてはいないが、そのかたの「何とかしたい思い」に火がつけば、こうして、継続した関係性につながる。



しかし、一回一回の訪問が勝負であり、こちらが何かを間違えば、そのやっとつながった関係も、切られるかもしれないのだ、という緊張感や慎重さを忘れてはならない。


つながりが切れることは、そのかたにとっての大きな傷つき体験となり、生活のうえでも損失であり、命にかかわる場合もある。



その関わりは決して、そのかたのご機嫌取りをするとか、言いなりになるとかではなく。


うまく伝えられないが、きっと、「嘘ごまかしなく、正直に向き合い、付き合う」ということが大前提だと思っている。



本当なのかわからない言動、波のある体調や気分。色々あっても、目的である、「部屋を片付ける」ということに向かっての共同作業だ。あれこれとこちらの思いや考えはあっても、一度にいくつものテーマや解決を求めない。



とにかく焦らず、焦らせず、まずは、この部屋に望む思いを聞いていく。



一人暮らしの割には、部屋数が多いアパートだったので、ご本人としてはまず、いつもいるリビングと、キッチンを片付け、まともに生活が出来るようにして、もうひとつの部屋はとりあえず倉庫みたいに物を移動させて、その倉庫部屋はあとからゆっくりひとつひとつ、物を確認しながら片付けたいと。


現実的なビジョンだなと思った。


こちらがごみかな?と思うものでも、ひとつひとつ。レシートの一枚までそのかたに確認を行う。うざいかなと思っても、それだけそのかたの希望に合わせた部屋になるようにしたいということであり、また、うっかり大事と思うものを捨てたりしないように。それを繰り返すうちに、「もう、任せますので、お願いします」と言ってもらえる。



しかし確認していて、必ず片付けの手が止まるのは、働いていた時のものたち。

着ていたスーツ、使っていた鞄、ファイル、財布、時計など。。

当時はバブルの渦中で、とてつもなく忙しかったけれど、景気も良く、給与も高く、だから無理してでも頑張れた。自分の能力も認めてもらえていた。

でも、体調を崩して戦線離脱したら、精神科に受診したら、全ての人が離れて行ったのだという。

焦って復職をしようとするも、うまくいかない。

薬を飲んでも、良くならない。

もともとのプライドもあり、人に助けてと言えない。


ケンカしながらひたすら主治医や病院を変え、合う薬を探し続け、自分で調合して乗り切る日々。



「あの時、もっと体力気力があって、乗り越えられればよかったんですけどね。自分はそこまでやれなかったんですよ。悔しいですね。すっごく。」と話してくれた。


いや、十分頑張っていたはずだ。そしてかなりの無理をしていたはずだ。


その時必要だったのは、ゆっくり休んで立ち止まること。無理をしない働き方にシフトしていくことや、それを認める会社や社会が必要だったのだと思う。



だが、もっと頑張るために精神科へ行き、薬でよくしようと試行錯誤するうちに、悪化して戻れなくなった。そしてすべてを失ったのではないか。



たくさん働くことが、そしてそれをものともしないことが、カッコイイような時代。
今の時代もその名残は十分にあるだろう。



あれから20年以上経った今も、このかたは昔の自分に戻りたいと願い、でもきっと無理だなと絶望し、自暴自棄になっては、かろうじて生き延びる日々を繰り返している。



精神医療と薬の問題は、個人の責任だけではない。



頑張ることを、無理をしてでも文句言わずに働くことをよしとする会社、バリバリ働いていきいきと生きることがカッコイイ、勝ち組のように煽る社会に、大きな問題がある。



精神医療はそこへ、巧みに入り込んでくるのだ。



今年から、労働現場でのストレスチェックも一部で開始されるという。

ストレスが多い→精神科受診促し、という安易な流れにしてはならない。

貴重な労働力を、失うことになってしまう。






次回へ続く

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